年齢/職業(撮影時):
30歳/編集者
Pickup Voice:
「(文章を書く際に)どっかに光晴が居て、っていうのがありましたね」
おすすめの一冊:
『金子光晴詩集』
著者/出版社:
金子光晴/岩波書店
編集後記:
『溢れる作家愛』
元は文学の研究者だったという男性。今回「活字になってるものを全て読みたいと思った数少ない作家」という金子光晴さんの詩集をお持ちいただきました。
そしてその中でも修士論文執筆中に出会ったという「絶望の精神史」について、研究者ならではの視点も交えつつ熱いお話しをいろいろお聞かせいただきました。
「絶望の精神史」は松岡正剛さんの千夜千冊の165夜としても登場しています。その中でこの一冊は、これまで「千夜千冊」でとりあげてきた164冊の本のなかでは、日本人として最も身に滲みた一冊である。
と書かれています。
引用元:165夜『絶望の精神史』金子光晴|松岡正剛の千夜千冊
今回お話しを聞くうちに、この言葉の意味がなんとなく分かったような気がしました。
もともと英文学を研究していたという男性。
しかし日本語の文学にも興味を持っていた中で、ある時教授より「日本人では誰を読むの?」「金子光晴はいいよ」と教えてもらい知ることになったそうです。
まずはじめに「どくろ杯」を読み、次に読んだ「絶望の精神史」には自信が論文の執筆の中で追い込まれていた状況と重なるものがあったのかもしれません。そこで金子光晴さんの地を這うような視点に出会い、衝撃を受けたそうです。
その魅力をこう教えてくれました。
「一見すると汚い言葉が使われているんです。例えばうんことか。『恋人よとうとう私はうんこになってしまいました』という一節も登場するのですが、光晴の文章は汚い言葉が使われていたり、赤裸々に人生を語っているのに、決して下品にならないんです。文章を通じて人の生き方だけでなく時代であったり、いろんな事がここまで肉付けできるんだなって衝撃を受けました」
本来であれば全集を持ってきたかったと微笑みながら話してくれる言葉からは、作家に対する溢れんばかりの「愛」を感じました。
「全く同じ状態の本がもう一冊あったら誰に贈りますか?」という質問には、
「いずれ子供ができたら、いろいろ経験して、こういうのも知っていいかなというタイミングで渡したい本だなって思いますね。ある程度世の中には悲惨さってのも存在するし、いろんな感情があるんだよっていう事を受け入れる年頃になったなって思った時に、こういうのを読んで、いろいろとまた世界を見る目を変えてほしいなって思いはありますね」との事。
今は研究活動から、世の中の文化の温度が上げられればという思いで情報を発信する側にまわられ、この日も逆にインタビューをしていただきました。
これからもたくさん生まれるであろう、その磨かれた鋭い視点から発信される記事が楽しみでなりません。
Interview text by Makoto Ebi
金子光晴詩集 (岩波文庫)
反骨の文化人。 |